親父に聞いた話。
30年くらい前親父はまだ自分で炭を焼いていた。
山の中に作った炭窯でクヌギ安来の墨予約夜勤にかかると足掛け4日ぐらいの作業の間鎌のそばの小屋で寝泊まりする。
その日は夕方から火を入れたのだが前回やりた時からあまり日が経っていないのにどうしたわけかなかなか釜の中まで火が回らない。
ここで焦っては元も子もないので親父は辛抱強く柴山気後れふいごを踏んで火の番をしていた。
夜もとっぷりと暮れあたりを静寂が支配し薪の爆ぜる音ばかりが聞こえる。
パチパチパチざざざざ背後の藪で物音がした。
獣かと思い振り返るが姿はない。
パチパチパチパチ笹笹笹笹笹藪の中をすごいスピードで移動し始めたこの時親父はこれはこの世のものではないなと直感し振り向かなかった。